SF

『ダーク・ハーフ』レビュー!

1993年
監督:ジョージ・A・ロメロ
出演:ティモシー・ハットン、エイミー・マディガン、マイケル・ルーカー、ジュリー・ハリス、ロバート・ジョイ、ケント・ブロードハースト、ルターニャ・アルダ

ロメロ×キング……もう二度と叶わない至高のコラボレーション

売れない純文学作家サッド・ボーモントには、もうひとつの“顔”があった。人気暴力小説『アレクシス・マシーン』シリーズの作者である“ジョージ・スターク”としての顔が。しかし、とうとうある男に正体を見破られて脅迫を受けた時、ボーモントはペンネームを捨てることを決意。先んじて世間に真実を公表し、墓地に張りぼての墓石を建てるというパフォーマンスでジョージ・スタークを“埋葬”した。その直後から、ボーモントの周囲で猟奇的な連続殺人事件が起こり始める。そして犯行現場に残された痕跡は「この純文学作家こそ一連の事件の犯人なのではないか?」という警察の疑いを強めるものばかりだった。だが、ボーモントだけは気付いていた。彼の悪の半身ともいうべきジョージ・スタークが実体化し、自分をこの世から葬り去った人々に復讐を開始したのだ、と……。

大ベストセラー作家スティーヴン・キングの同名小説を、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(68年)のジョージ・A・ロメロ監督が映画化した超自然的サイコ・ホラー。製作配給会社オライオン・ピクチャーズの破産で完成後2年間も店晒しにされた挙げ句、捨て売り同然に公開された本作は、ホラー映画史上&ロメロ監督のフィルモグラフィ上においても、さほど目立つ作品ではない(日本では劇場未公開)。だが、ロメロがお得意の社会風刺芸を封印し、キング原作の忠実な映像化に努めた結果、『ゾンビ』シリーズとは趣を異にした、味わい深い佳作となっている。

ホラー映画ファン、特にゾンビ映画を愛する人たちの間では、それこそ神様の如く崇め奉られているジョージ・A・ロメロ監督。しかし興行成績に目を向けてみれば、大ヒット作『ゾンビ』(79年)の後は、収支トントンか赤字で終わってしまった作品がほとんどだ。数少ない例外のひとつが、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』のファンだったキングのオリジナル脚本を、ロメロが軽快な演出で調理してみせたオムニバス『クリープショー』(82年)であり、この映画の成功によって、ホラー界2大巨匠の友情は以前にも増して深まった。

その後、『ペット・セマタリー』や『IT -イット-』、『ザ・スタンド』(いずれも邦訳版は文春文庫刊)などのキング原作映像化企画が浮上するたびに、「信頼のブランド」であるロメロの名も繰り返し監督候補者リストに載せられてきたわけであるが、異才2人の歯車をうまく噛み合わせて現実的な予算&スケジュール内に落とし込むのは容易ではなく、脈アリと思えた企画までもが軒並みペンディングないし御破算、他の監督のもとへと流れていってしまう。「石頭のスーツ族どもに任せておいたら、いつまで経っても話が進まん!」……御大がそんなことを考えたかは知らないが、小説『ダーク・ハーフ』が1989年10月に出版されるや、ロメロは怒涛の勢いでプリプロダクションを進め、翌年10月には撮影を開始(映画会社が原作出版前に映画化権を獲得しておくのも別段珍しいことではないが、それにしてもコレは物凄い速攻だ)。「低予算+無名キャスト」という従来のスタイルから打って変わって、「1500万ドルのバジェットに、アカデミー賞俳優を含む名の知れた役者たち」という陣備えで、メインストリームに殴り込みをかけた。

予算アップで技術的制約が減ったとはいえ、元来小ぢんまりした制作体制が性に合っているロメロにとって、本作で経験した苦労は並大抵のものではなかったようだ。メソッド俳優ティモシー・ハットンと演技法をめぐって衝突、ヴェテラン撮影監督のトニー・ピアース=ロバーツとはさっぱりウマが合わず、撮影のために調教したはずの5000羽もの鳥は、盛大に食って排泄するだけの役立たずと判明。借り物の合成用素材でデッチ上げた「冥界に吸い込まれていくスズメの大群」ショットは、監督自ら出来の悪さを認めているだけあって、ナルホド酷いものだ。そして仕上げ段階でダメ押し的に起こったのが、前述したオライオン・ピクチャーズの破産である。スタッフへのギャラ払い止め、不熱心な宣伝広告活動……『モンキー・シャイン』(88年)に続いてオライオンに煮え湯を飲まされたロメロは、それから十数年間、大手スタジオで映画を撮ることはなかった。

そんな悪路でも棄権せずに走り切り、しかと光るものを残しているところが、ホラー映画界の巨匠としての矜持か、盟友キングの信頼を裏切るまいとする決意の表れか。やり過ぎとも思える役作りでロメロやスタッフを困惑させたハットンだが、さすが『普通の人々』(80年)でオスカーに輝いた俳優は単なる口だけ番長ではなく、不器用な小説家と下卑た殺人鬼を、1人2役で見事に演じ分けている。ボーモントが見る悪夢のイメージは恐ろしくも美しく、パペットとアニマトロニクス、そして僅かな生身の鳥で表現されたスズメは、サイコポンプ(死者の魂の運び手)という重要な役どころで確かな存在感を示してみせた。ロメロ作品の弱点と指摘されることが多い音楽も、ここではクリストファー・ヤングの起用によって荘厳ともいえる響きを獲得。血液ドバドバ、内臓デロリン等の即物的なゴア表現が少なくなったぶん、ロメロ固有の視覚的センスが純化されて前面に押し出され、明瞭になっている。地味と言われれば確かに地味だが、キング原作の映像化作品、特に長編小説から作られた映画の中で上位ランクに食い込む1本であることも事実だ。

2017年にジョージ・A・ロメロ監督がこの世を去ってから、早いものでもう4年が経とうとしている。「モダンゾンビの父」としての名声は昔も今も変わらぬままだが、彼は血なまぐさいトリックで観客を驚かせる悪戯っ子であるのと同時に、極めて誠実なストーリーテラーでもあった。非ホラー映画『ナイトライダーズ』(81年)と並び、『ダーク・ハーフ』はロメロの“もうひとつの顔”を窺い知ることができる重要作。ロメロとキング、この先二度と叶わない至高のコラボから生まれた作品として、もっと評価されてもいいと思う。

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