SF

『オデッセイ』レビュー!

2015年
監督:リドリー・スコット
出演:マット・デイモン、ジェシカ・チャスティン、クリステン・ウィグ、マイケル・ペーニャ、ケイト・マーラ、ショーン・ビーン、キウェテル・イジョフォー、ジェフ・ダニエルズ
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/odyssey/

とってもげんきのでるえいが

NASA(アメリカ航空宇宙局)による有人火星探査計画〈アレス3ミッション〉のため、火星へと降り立った宇宙船ヘルメス号の乗組員たち。ところが地表の探査任務中に大規模な嵐に襲われた彼らは、やむなく計画の中止を決定する。退避中、マーク・ワトニー飛行士を不慮の事故で失いながらも、火星からの脱出に成功したクルーたちは地球への帰路に就くが、死んだと思われたワトニーは奇跡的に生きていた。不毛の惑星にたった一人取り残されてしまったことを知った彼は、残された物資と持てる知識を活用し、救援が到着するまでの4年間を生き延びようと決意。やがて、ワトニーの生存を察知したNASAやヘルメス号の乗組員たちも、一刻を争う状況の中でイチかバチかの救出作戦に打って出るのだが……。

新鋭SF作家アンディ・ウィアーが発表した小説『火星の人』(早川書房 刊)を、『クローバーフィールド/HAKAISHA』(08)、『キャビン』(12年)のドリュー・ゴダードが脚本化したサバイバル大作。当初はゴダードが監督も兼任する予定だったところに、20世紀フォックス社から送られてきたシナリオを読んで「ワシが撮ったる!」と名乗りを上げたのが、『エイリアン』(79年)や『ブレードランナー』(82年)などで知られる巨匠リドリー・スコット。2010年代に入ってからというもの、毀誉褒貶が激しい珍作や極めて陰惨なスリラーを連発していたスコットだが、『オデッセイ』鑑賞中ずっと持続するこの楽しさは一体全体どうしたことだろう?ルックスからも語り口からも、御大の過去作でとかく強調されがちだった“闇”がほとんど感じられないばかりか、科学知識のスープに週刊少年ジャンプ3大標語をブチ込んでトコトン煮染めたような「とっても元気の出る映画」に仕上がっているのだ。

食べ物や飲み水はおろか、呼吸のための酸素にすら事欠く異星で独りぼっち。まこと、想像するだに恐ろしい状況だし、その気になればいくらでもシリアスな物語に仕立て上げることが可能であろう。だが、「優れた頭脳を持つアクティヴな楽天家」に設定された本作の主人公は、あれこれ思い悩むより先にどんどん行動する。“秘伝の有機肥料”を用いたジャガイモ栽培に、バケ学知識を活かしてのピタゴラ水生成(ワトニー、味の素を“L-グルタミン酸ナトリウム”と呼ぶクチだろう。恐らくは)。最先端科学技術の粋を集めた居住施設が破損したらば、そこらのホームセンターでも買えそうなビニールシートとラッシングベルト、ダクトテープ(米国流応急処置の友!)で修繕……生きるか死ぬかという切迫したシチュエーションのはずなのに、DIY感満点の創意工夫描写がハラハラのみならずワクワクまでも亢進。事ある毎にユーモアセンスを披露しようとするワトニーの性質、大量投入された70年代ポップスのノリと勢いも相俟って、映画全体が何やらお祭りめいた多幸感に包まれていく。

能動的なアクションを見せるのは、ワトニーだけではない。ヘルメス号の乗組員たち、NASAの職員、ジェット推進研究所のエンジニア、腹に一物ありそうなCNSA(中国国家航天局)の面々までもが、火星ボッチ男を故郷に帰すために知恵を絞り、考えうる限りの手段を講ずる。次々と打ち出されるトライアルの中には、コトを急いた結果失敗に終わるものや明白な違反行為もあるが、「人事を尽くさずして天命を待つ」みたいな無責任人間はどこにも見当たらない(そもそも彼らに課せられた難題の前では、近頃よく耳にする“やってる感”など屁の突っ張りにもなりゃしないわけで)。能ある人たちが英知を結集し、不可能と思われたことを可能にしていく……つまり本作は、『ミッション:インポッシブル』シリーズ(96年~)や『オーシャンズ』シリーズ(01年~)のようなチーム・アクション映画としての側面を持ち、サバイバル映画に付き物の“創意工夫バラエティパック”的なギミックが満載で、しかも登場人物はひたすら前向きな面子揃いなのだ。これで楽しい作品にならないわけがない(ドナ・サマーやデヴィッド・ボウイの力強い歌声の陰に隠れがちだが、控え目ながら情感豊かな旋律で物語を盛り立てるハリー・グレッグソン=ウィリアムズの劇伴も素晴らしい仕上がりだ)。

それにしても、これほど瑞々しくパワフルな快作をモノにしたのが撮影当時77歳の大ベテラン、リドリー・スコットであったという事実には、以前も今も驚きを禁じ得ない。CMディレクターとして成功をおさめ、長編監督デビュー作『デュエリスト-決闘者-』(77年)でいきなりカンヌ国際映画祭新人監督賞を受賞、続く『エイリアン』ではSFホラー映画の新時代を切り開いたスコット。『ブレードランナー』初公開時の批評・興行的惨敗以降、売れ線意識型の職業監督としての色合いを徐々に強めていってからは、その作風があまりに商業主義的だと非難されることもあった。だが、作品の方向性や予算を巡ってスタジオと度々衝突し、俳優への演技指導そっちのけでキャメラオペレートや美術デザインに没頭することもあったという「かつての」スコット監督のままでは、おそらく『オデッセイ』は作れなかっただろう(逆もまた然り。今のスコット監督が『ブレードランナー』を作ったなら、娯楽色濃厚な全くの別物になると思う)。冷酷無慈悲な問題作『悪の法則』(13年)を撮った揺り返しか、ここへ来て人間愛の素晴らしさを再認識したのか?案外、おじいちゃんになって性格が丸くなっただけなのかもしれないが、こういう驚きは大歓迎である。

ちなみに本作は、ゴールデングローブ賞「ミュージカル・コメディ部門」の作品賞・主演男優賞に輝き、アカデミー賞でも7部門にノミネート。そんな愛され映画を世に放ったスコット監督はといえば、続く宇宙SF『エイリアン:コヴェナント』(17年)では夥しい量の血と臓物を使い、嬉々として大残酷ショー演出に励んでいた。ホント、読めないお人だ。


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