SF

『移動都市/モータル・エンジン』レビュー!

2018年
監督:クリスチャン・リヴァース
出演:ヘラ・ヒルマー、ヒューゴ・ウィーヴィング、ロバート・シーハン、ジヘ、レイア・ジョージ、スティーヴン・ラング

最新技術が織り成すハッタリ絵巻

〈60分戦争〉で文明の殆どが失われてから約1700年後の世界。そこでは辛うじて生き残った人類が〈移動都市〉に居住し、力ある都市が他の都市を「喰らう」熾烈な生存競争が続いていた。巨大移動都市ロンドンに住む歴史学ギルド見習いの青年・トムは、あるとき史学ギルド長のサディアスが刺客に襲撃される瞬間を目撃する。暗殺に失敗し、現場から逃走した謎の少女・ヘスターと、彼女を追ううちにロンドンの外へと放り出されてしまったトム。共に荒野を彷徨う2人はやがて、巨大な防壁に囲まれた反移動都市同盟の拠点〈シャングオ〉の正体や、サディアスが企てた恐るべき陰謀の存在を知ることになる……。
 
イギリス人作家フィリップ・リーヴが執筆し、のちにシリーズ化もされたSF小説『移動都市』(創元SF文庫 刊)を、『ロード・オブ・ザ・リング』、『ホビット』の製作チームが実写映画化したアクション・ファンタジー。今や『バッド・テイスト』(87年)の手弁当撮影時代がウソのような巨匠へと出世したピーター・ジャクソン監督(以下、PJ)がプロデュースにまわり、世界屈指のVFX工房、WETAデジタルが視覚効果を担当した超大作である。「都市が都市を捕食する」……字面一発でアタマがどうかしているとしか思えないこの発想を、最新技術のハッタリで堂々と「画」にしてしまった本作は、もうそれだけで観る価値あり。煙突から煤煙を吐き出しながら自走する都市の意匠には、バンド・デシネや日本の漫画&アニメからの影響が色濃く反映されており、レトロとモダン、そして何やら得体の知れないテクノロジーが渾然一体となったスチームパンク的な異世界風景は、観る者のセンス・オブ・ワンダーを激しく掻き立てる。特に、セント・ポール大聖堂やトラファルガー広場のライオン像を模したスタチューで盛りに盛られた巨大移動都市ロンドン、その威風堂々たる姿は鋼鉄のスフィンクスさながらの大迫力で、「よくぞここまで」と感心してしまうほど。もともとPJ組のストーリーボード・アーティストとしてキャリアをスタートさせたクリスチャン・リヴァース監督、故・野田昌宏氏言うところの「SFってのは、絵だねぇ」という感覚が、骨の髄まで染みついているのだろう。正直、ヘスターとその育ての親である〈復活者〉シュライクに纏わるエピソードの食い足りなさや、紋切り型のストーリー展開などの弱点もあるのだが、本作の場合、大ボラをもっともらしく映像化してやろうという作り手の熱意が、シナリオの弱さを補って余りある(さすがに、賞味期限1000年超過のトゥインキーが原形をとどめているとは思えませんが……)。

ひと昔前ならば大いなる驚嘆と讃辞をもって称されたに違いない『移動都市/モータル・エンジン』だが、蓋を開けてみれば、約1億ドルの製作費に対して世界興収8400万ドルという大赤字を記録。その結果を受けて、日本での公開規模も大幅に縮小されるという憂き目にあった。リュミエール兄弟がラ・シオタ駅に到着する列車をスクリーンに映し出してから120年以上が経過した今、「映画を観て心底ビックリしたい」という観客の欲求を満たすには、ただ華美で緻密なVFXを見せびらかすだけでは不十分なのかもしれない。より刺激的で忘れ難く、なんなら観る者の心にトラウマの鉤爪グッサリと打ち込んでしまうような映像体験……そう、例えばクライヴ・バーカーの恐怖短編『丘に、町が』なんて、画で魅せるファンタジー映画の原作としては絶好のネタではないか。無数の○○が折り重なってできた××、それが深更の闇の中をノッシノッシと進んでゆく場面のヴィジュアル・ショックは、ロンドン大移動のインパクトを余裕で超えてくるだろう。PJとWETAチームの創造力は、こういうトンガった悪夢世界の構築にこそ炸裂させていただきたいものだ!……と、妄想膨らませつつ偉そうに書いたところで気がついた。あのホン、つくづく商業映画に向いてないんだよなぁ……。


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