アクション

5月24日公開『空母いぶき』かわぐちかいじ氏の同名コミックを実写化した話題作、先行レビュー!

[2019年 監:若松節朗 出:西島秀俊、佐々木蔵之介、本田翼、藤竜也、佐藤浩市]

がんばれ、現実

20XX年12月23日未明、沖ノ鳥島の西方450キロにある波留間群島・初島近海に国籍不明の漁船20隻が出現。漁民になりすました武装勢力は海上保安庁の巡視船《くろしお》の乗組員を拘束し、初島へと上陸する。この衝撃的な一報を受け、海上自衛隊は戦後初の航空機搭載型護衛艦《いぶき》を旗艦とする第5護衛隊群を現場海域に向かわせるが、彼らを待ち受けていたのは敵潜水艦からの突然のミサイル攻撃だった。さらに針路上には敵の空母艦隊までもが姿を現し、戦闘拡大の緊張が一気に高まる。《いぶき》艦長の秋津と副長の新波は、刻々と変化していく状況への対応に迫られ、互いの意見を衝突させながらも、この未曽有の危機に立ち向かおうとするのだが……。
 
『沈黙の艦隊』、『ジパング』等で知られる漫画家・かわぐちかいじの同名コミック(小学館「ビッグコミック」にて連載中)を、『ホワイトアウト』(00年)、『沈まぬ太陽』(09年)の若松節朗監督が実写映画化。再び開戦の危機に直面した日本、その緊迫の24時間を大スケールで描く話題作である。
 
もはや説明するまでもないことだが、1億ドルから2億ドル、あるいはそれ以上の制作費を投じたブロックバスター映画が年にいくつも作られているハリウッドと比べると、我が国の映画界の台所事情はかなり厳しい。当然、予算が少なければ準備・撮影・仕上げ期間の時間的余裕も減り、それは役者の芝居や撮影セットのクオリティ、VFX、音響効果の品質低下といった形で完成作品に如実にあらわれる。しかし、撮影環境にどれだけの差があろうと、劇場でチケットを購入するお客さんにとっては、どれも同じ「映画」。ローバジェット作品がビッグバジェットの超大作と互角に渡り合うためには、資金の不足分を埋め合わせられるだけの知恵と工夫が必要不可欠だ。
 
かわぐちかいじ漫画といえば、一癖も二癖もある国際色豊かなキャラクターがウジャウジャ登場し、軍艦・軍用機・その他強力兵器を豪快かつフェティッシュに描く、とにかく規模のデカい作風が特徴。早い話、真正面から実写化を試みれば、いくらお金があっても足りゃしないのだ。過去に10億~20億円規模の予算を転がした経験を持つ若松節朗監督、そのあたりを重々承知の上で今回の企画を受けたことは想像に難くない。状況説明を字幕と台詞で処理し、敵方のエピソードは登場人物ごとごっそりカット。艦内セットをマイナーチェンジで再利用し、海戦シーンのVFXも、このテのスペクタクル巨編にしてはかなり抑制された使い方だ。これだけ聞くと、何だか低予算独立系作品の舞台裏悲話のようでゲンナリしそうになるが、削ぎ落としと圧縮でカネのかけどころが明確になった結果、「“かわぐちかいじ原作”の金看板に負けぬ画作り」という本作最大の課題は見事にクリア。戦艦モノのお約束、野郎キャスト陣の彫りの深い顔を劇的に照らし出す照明は本作でも効果抜群で、艦内の緊迫した空気をより一層引き締めている(特に、《いぶき》副長役・佐々木蔵之介の顔の造形は、戦闘指揮所内の冷たい光と抜群に相性が良い)。24時間の出来事に的を絞ったことで、長大な原作とはひと味違うタイムリミット・サスペンスの要素も加わっており、コレはコレでなかなか「映画的」改変と言えよう。

難点もあちこちにある。戦闘シーン以外では立ち芝居・座り芝居が多く、いささか動的な興奮に欠けるし、微妙な時局を鑑みての改変とはいえ、敵国を「東亜連邦」なる仮想国家に設定したことには、不満を感じる原作ファンもいるだろう(試写会場で隣の席に座った男性は、舌打ちしながら「中国じゃねぇのかよ……」と独りごちていた。気持ちは分からんでもないが、鑑賞マナーは守りましょう)。「観客と同じ視点で事件を目撃するキャラ、必要だっぺ?」という発想で加えられたであろう映画版オリジナルの登場人物も、せっかくオイシい場所に配置しておきながら、活かしきれているとは言い難い(ついでに、女性記者が炎上する護衛艦を撮影している場面、キャメラをあんなふうに構えていたのでは、あの映像は撮れんだろ)。しかし、本作のリアリティを殺いでいる一番の要因は、劇中で様々な意思決定を下す官邸地下危機管理センターの面々があまりに「ちゃんとし過ぎている」点だ。もしも今、この映画と同程度の危機が現実に起こったとしたら、お決まりの「強い憤り」表明と朝改暮変の閣僚会議を繰り返すうちに、日本は焦土と化すのではなかろうか。頼りない「リアル」が架空戦記の迫真性を損ねるとは、なんという皮肉。「がんばれ、現実」としか言いようがない。

映画『空母いぶき』は、5月24日(金)より全国ロードショー

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