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4月12日公開『多十郎殉愛記』“日本映画界のレジェンド”中島貞夫、20年ぶりの監督作を先行レビュー!

[2019年 監:中島貞夫 出:高良健吾、多部未華子、木村了、三島ゆり子、寺島進]

平成の終わりに蘇った“ちゃんばら”

京都の貧乏長屋に住まう清川多十郎は、親が残した借金から逃れるために長州を脱藩した浪人。夢も希望も、剣を握る理由も見失った彼は、小料理屋の女将・おとよに世話を焼かれながら、無為に日々を過ごしていた。その頃、新撰組の勢いに押されつつあった京都見廻組が不逞浪士の取り締まりを強化。多十郎も、腹違いの弟・数馬と一緒にいたところを見廻組に急襲され、乱闘の中で数馬が手傷を負ってしまう。おとよに数馬を託し、2人が無事に京を離れるまでの囮役を買って出た多十郎。愛する者を守るために再び刀を抜いた男の、命を懸けた戦いが始まった……。

故・深作欣二監督と共に「東映実録シリーズ」を牽引、『木枯し紋次郎』(72年)や『真田幸村の謀略』(79年)などの時代劇も手掛けた大ベテラン・中島貞夫監督が、『極道の妻たち決着』(98年)以来、約20年ぶりに放つ長編劇映画。CGを使わず、役者の動きのみで全てを描ききる“ちゃんばら”の原点に立ち戻った意欲作である。

「今の世に、剣を抜いて本気で闘ったことのある侍がどれだけいる?」……徳川幕府消滅の23年前を舞台にした三池崇史監督作『十三人の刺客』(10年)で、役所広司扮する島田新左衛門が配下の者たちに言い放つ台詞だが、これは物語の中だけに限った話ではなく、「純・肉体表現」としての殺陣を演じられる俳優は確実に減りつつある。視覚効果技術の進歩は、ひと昔前までは実現不可能だった描写を可能にし、エアーラムやワイヤー等のスタント機材を用いることで、俳優が現場で演じることのできるアクションの領域はグッと広がった。しかし、テクノロジー面での更新が繰り返される一方、生身の人間が身体的動作だけで表現する“ちゃんばら芸”の伝統は衰退の一途をたどってはいまいか?東映京都撮影所でキャリアを積み、ドキュメンタリー『時代劇は死なず ちゃんばら美学考』(16年)で時代劇ちゃんばらについて考察した中島監督にとって、「育てる者がおらず、やがて育つ者もいなくなる」という状況は看過できないものだったに違いない。20年という長い沈黙を破って再び長編映画を、しかも本格時代劇のメガホンをとった「日本映画界のレジェンド」。多十郎役・高良健吾を2か月間の殺陣稽古で鍛え上げ、斬られ役として選抜した俳優には十分な「斬られ」の訓練を課して……というエピソードからも、監督の並々ならぬ意気込みが感じられる。

上映時間93分、そこに「ラスト30分 壮絶な死闘に泣け!」という豪快な惹句をつけただけあって、物語のプロットは非常にシンプル。おまけに時代背景その他についてのクドクドしい解説は無く、多十郎とおとよのエピソードも、お話を転がす上での必要最小限な分量にまで刈り込まれている。何をするにも台詞で説明し、「まるで副音声解説」と揶揄されるまでになった近年の映画の悪しき風潮に待ったをかけるような作風が粋だ。このあたり、中島監督が“ちゃんばら”の精神だけでなく、かつて作り手とお客さんの間に存在した強い信頼関係をも復活させようと試みているようで、観ていて嬉しい。

やがて始まる、多十郎と追っ手の大立ち回り。本作における立ち回りは、近年のトレンドというべき、敏捷かつ華麗なアクションとは異質のものだ。迫り来る敵を鮮やかな剣さばきでグサリバッサリ……とはいかず、息を切らして逃げ回りながら、どっこい1人目、どっこい2人目と、必死の形相で追っ手を斬り伏せていく多十郎。いわゆる「ラスボス」格である見廻組抜刀隊隊長・溝口蔵人との一騎討ちでも、人間離れした派手な動きやトリッキーな必殺技が繰り出されることはなく、手数よりもむしろムード(腕利きの剣客同士が相対した際に流れる気迫や殺気)に重きをおいて場面を引っ張る。これらを「渋さ」と捉えるか、あるいは「鈍重」と見なすかで評価は大きく分かれると思うが、昨今の流行りスタイルとは一味違った映像体験が可能な新作映画として、「一見の価値あり」と断言したい。

平成の終わりに突如出現した異色時代劇。公開タイミングの妙と言うべきか、本作からは昔ながらの“ちゃんばら”が持つ美点だけでなく、欠点をも再発見することができる。様式化された決闘、ハイパーリアルで生々しい斬り合い、敢えて滑稽さを強めたチャンチャンバラバラ……映画における戦いの描き方など無数にあるし、手法あれこれに上等下等の等級分けは無い。伝統を受け継いでいくことは確かに重要だが、肝心なのは作品に合った技術を選択し、調合すること。CGも生身のパフォーマンスも「万能に非ず」という点では同じなのだ。『多十郎殉愛記』という作品の真の存在意義は、これから何本もの時代劇が作られていった後で初めて決まる、と言っていい。中島監督が本作で蒔いた種、それが将来どのような技術と混ざり合い、いかなる場所で発芽するのか……今はまだ、誰にも分からない。

映画『多十郎殉愛記』は4月12日(金)より全国ロードショー

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