SF

『デューン/砂の惑星』レビュー!

[1984年 監:デヴィッド・リンチ 出:カイル・マクラクラン、ショーン・ヤング]

凄み漲る一大カルト巨編

はるか未来。“砂の惑星”アラキスでのみ生産される希少香料メランジの利権をめぐり、宇宙のあちこちで権力闘争が続いていた。惑星カラダンの統治者であるレト・アトレイデス公爵を疎ましく思う皇帝シャダム4世は、レト公爵に敵対するハルコネン男爵と結託し、アトレイデス家の壊滅を企てる。ハルコネン軍の襲撃によってレト公爵は命を落とすが、レトの息子ポールは母ジェシカと共にアラキスの砂漠へと逃げ延び、そこで原住民であるフレーメン族と合流。フレーメンに伝わる“生命の水”を飲み、超人間=クイザッツ・ハデラッハとして覚醒したポールは、新たに組織した軍団を率いて皇帝とハルコネンに戦いを挑む……。

フランク・ハーバートが1965年に発表し、ヒューゴー賞&ネビュラ賞の同時受賞という栄誉に輝いたSF小説『デューン 砂の惑星』(邦訳版はハヤカワ文庫SFより刊行)。これを映画にしようという動きは70年代初頭から存在し、『エル・トポ』(70年)の異才アレハンドロ・ホドロフスキー監督、『エイリアン』(79年)で一大センセーションを巻き起こしたリドリー・スコット監督らが映像化を試みた。しかし、あまりに壮大な内容や様々なトラブルのせいでなかなか実現には至らず、プロデューサーも監督も次々に交代。長い長いデベロップメント・ヘルの果てに、豪華クセ者キャストたちと4000万ドルもの巨費が投じられ、ついに映画は完成する。だが宣伝用ポスターには、映画ファンの期待だけでなく不安をも増大させる名前が2つ並んでいた。「製作総指揮:ディノ・デ・ラウレンティス」と「監督:デヴィッド・リンチ」である。

ディノ・デ・ラウレンティスは、当時すでに百数十本もの作品を世に送り出していた大ヴェテランの映画プロデューサー。そのフィルモグラフィーを見渡せば、外国語映画賞を獲得したフェデリコ・フェリーニ監督の『道』(54年)や、アル・パチーノ主演『セルピコ』(73年)など、大きな成功を収めたタイトルも少なくない(娘のラファエラ、後妻マーサと組んで手掛けた作品も多数)。ただ、あまりに豪放な性格ゆえか「ハズす時には派手にハズした」ことでも有名な御仁で、特にSF・ファンタジー色が強いプロデュース作品にはどうにもビミョーなやつが並んでいる。「実物大のコングを作った!」という一発花火だけが取り柄の『キングコング』(76年)、製作費と完成品の落差が凄まじい珍作『フラッシュ・ゴードン』(80年)、撮影される前に幻となって消えたデヴィッド・クローネンバーグ版『トータル・リコール』……どれもこれもバジェットがデカいわりにガジェットへの愛が薄く、「サービス精神があさっての方向に突っ走っている」という印象が拭えない。

一方、当時のデヴィッド・リンチは、グロテスクな魅力に満ちた長編デビュー作『イレイザーヘッド』(76年)で注目され、『エレファント・マン』(80年)を批評・興行の両面で成功させた新進映像作家。唯一無二のヴィジュアル・センスの持ち主であることは確かだが、それが娯楽大作の製作現場でどんな化学反応を起こすかは予測不能。TVシリーズ『ツイン・ピークス』(90~91年)の大ブームから遡ること数年、まだ『ブルーベルベット』(86年)も『ワイルド・アット・ハート』(90年)も存在しない時点では、リンチの名も今ほど強烈なパワーを持っておらず、大多数の観客にとっては、「ユニークな白黒映画を2本撮っただけの若手」に過ぎなかった。

ともすれば、一度も交差することなく己が道を進んでいたはずの2人。しかし『イレイザーヘッド』に感銘を受け、『エレファント・マン』の演出を高く評価していたラウレンティスは、独特の美的センスを持った若き鬼才に、この超ド級大作の監督・脚本をオファーする。コツコツと小品を作っていた若手監督がいきなり大仕事を任される、そんなケースが珍しいものでなくなった現在に振り返ってみても、この抜擢には驚きを禁じ得ない。そして「大バクチの甲斐あって」と言うべきか、完成した映画には他のどんなスペースオペラ作品とも違う、ある種の「凄み」が漲っていた。陰鬱で退廃的なムード漂うセット・デザイン、奇怪なキャラクター、無骨な機械が発するノイズ、隙あらば挿入されるプチ・グロ描写……凄みの発生源を探ろうとすると、リンチの過去作とも共通するファクターが渾々と湧き出てくる(もしも本作鑑賞中にテレビ画面の設定をいじり、白黒映像に切り替えたとしても、さほど違和感は覚えないだろう)。劇場公開時には大コケし、変態監督の雇われ仕事と揶揄する声もあったが、その正体は紛う方なきリンチ作品であり、むやみやたらとザックリ豪快なスケール感には「ラウレンティス・プロデュース」の刻印が確と打たれている。4時間近くあった荒編集版を2時間17分まで刈り込んだという本編は確かにイビツだし、これをクリスマス・シーズンに封切って大ヒットを狙うというのは、(たとえリンチに編集の最終決定権が与えられていたとしても)さすがに無謀な挑戦だったのではないかと思わざるを得ない。しかし『デューン/砂の惑星』の存在は、「異能監督の黒歴史」として片づけるにはあまりにも巨大だ。そしてそこには、妖しく捻くれた魅力がギッシリと詰まっているのである。

本作で映像化の難しさを証明されたのちも、リンチの名を外した前後編TV放映版や、スタッフ・キャストを一新したミニシリーズとして転生を繰り返してきた『デューン』。現在では、『ボーダーライン』(15年)、『メッセージ』(16年)のドゥニ・ヴィルヌーヴを監督に据え、リメイク企画の準備が着々と進んでいるようである。ヴィルヌーヴといえば、かつて『デューン』プロジェクトに関与したリドリー・スコットの代表作『ブレードランナー』(82年)の「その後」を、『ブレードランナー 2049』(17年)で見事に描いてみせた才人だが、彼の能力を以てしても、リンチ版の呪縛を完全に解くことは相当難儀に違いない。カルト映画が後世に及ぼす影響は、万人に愛される映画のソレよりもはるかに捉え難く、繊細で、根差しが深いのである……『イレイザーヘッド』の主人公が見ていた、ラジエーター・ガールの幻影のように。

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