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驚愕の実話をもとにした話題作、映画『ちいさな独裁者』先行レビュー!

[2017年 監:ロベルト・シュヴェンケ 出:マックス・フーバッヒャー、ミラン・ペシェル]

※注意:文中にネタバレを含みます。内容をお知りになりたくない方は、本編鑑賞後にお読みください。

借り物の権威が生む狂気

1945年4月、第二次世界大戦末期のドイツ。脱走兵のヘロルトは、逃走中に偶然ナチス将校の軍服を発見する。盗品を身にまとい、空軍大尉になりすましたヘロルトは、道中で出会った敗残兵たちを言葉巧みに籠絡し、自らでっち上げた「ヘロルト親衛隊」なる一団のリーダーに成り上がっていく。やがて彼らが行き着いたのは、ドイツ国防軍の逃亡兵が多数押し込められているエムスラント収容所。軍服が持つ魔力に魅了され、支配することの快感に目覚めたヘロルトが囚人の生殺与奪の権を握ったとき、収容所は狂気が渦巻く「この世の地獄」と化してしまう……。

独裁者アドルフ・ヒトラーがベルリンの総統官邸に追い詰められ、ナチス政権の崩壊が秒読み段階に入っていたちょうどその頃、ドイツの片隅に突如として出現した「もうひとりの独裁者」ヴィリー・ヘロルト。偶然手にした権力に溺れ、瞬く間に怪物へと変貌していった19歳の脱走兵の実話をもとに、『フライトプラン』(05年)、『RED/レッド』(10年)のロベルト・シュヴェンケ監督が母国ドイツで撮り上げた衝撃作、それがこの『ちいさな独裁者』である。

映画やドラマの撮影現場において、衣装が演者に及ぼす影響は絶大だ。役柄に合った服を着て小道具を身につけ、メイクを施せば、風采の上がらないオジサマ・芋ネエちゃんが上場企業経営者や深窓の佳人に大変身。場合によっては外見の変化だけにとどまらず、話し方や性格までガラリと変わってしまう。お芝居の世界に限ったことではない。恋の駆け引き、失敗が許されない商談、その他もろもろの人付き合い……ここぞという場面で、いわゆる「勝負服」から勇気をもらった経験は、多くの人が持っていることだろう。だが、ライトサイドあればダークサイドあり。薬は時として毒に転じ、自分のみならず周囲の人々にまで、とんでもない災厄をもたらすことがあるのだ。

部隊を脱走し、野戦憲兵隊から追われる身となったヘロルトの人生は、道端に乗り捨てられていた軍用車の中でピカピカの軍服を見つけた瞬間、予期せぬ方向へと転がり始める。空軍大尉の物であることを示す階級章、空軍降下猟兵章に戦傷章、そして栄光の鉄十字勲章(サム・ペキンパー監督作『戦争のはらわた』〈77年〉で、マクシミリアン・シェル扮する名誉欲の鬼、シュトランスキー大尉が戦死者の手柄を横取りしてまで得ようとしていたアレだ)。思いがけず入手した尉官変装グッズ一式は、落ちるところまで落ちた若造を狂わせるのに十分なパワーを秘めていた。兵卒・下士官を服従させ、将校たちとの対等の付き合いを可能にしてしまう魔法のアイテム。敗戦前夜の指揮系統の混乱も手伝って、無茶な命令が面白いように通る。「これさえ着ていれば……この力があれば……」と、権力の虜になった脱走兵ヘロルト、もとから抱えていたに違いない邪な欲望をますます肥大させ、ついには収容所における事実上の支配者の座にまで上り詰める。

本作を鑑賞しながら、これとよく似た設定が漫画の世界でも描かれていたことを思い出した。マーベル・コミックの人気キャラクターであり、『スパイダーマン3』(07年)や『ヴェノム』(18年)では実写化もされた寄生生物、シンビオートである。宿主から驚異的な力を引き出し、精神の高揚をもたらすが、同時に凶暴化や理性喪失をも招きかねないという厄介な生き物だ。服とナマモノという決定的な違いはあるものの、着用者に与える影響は驚くほど似通っている。効能だけを見るなら、ヘロルトが拾った軍服もシンビオートの親戚みたいなものと考えてよろしい。あの「親愛なる隣人」スパイダーマンでさえ制御しきれなかったほどの強大なパワーを、そこらのボンクラ青年が制御できるわけもない。暗黒面の力に耽溺し、精神的機能不全をきたしてしまったヘロルトは、いつの間にか権威の象徴である軍服に主導権を奪われたマリオネットに成り下がり、行く先々で毒を撒き散らした挙句、自滅していくことになるのだ。

映画では、ヘロルトが元来サイコパス的な側面を持っていたかのような描写があるため、これは様々な悪い偶然が積み重なって起きた「稀有な事例」であると読み取ることもできる。だが、本当にそれだけなのだろうか?「(実際に行使するかはさておき)“罰を受けることのない残虐行為”の誘惑に駆られない者など存在しない。彼らは私たちだ。過去は現在なのだ」と語るシュヴェンケ監督は、物語の最後で、ヘロルト親衛隊を21世紀のドイツの街なかにタイムスリップさせてみせる。一見コミカルで、直前までの雰囲気とは明らかに異質な当該箇所の存在は賛否分かれるところだと思うが、そのような場面を(エンドロールの一部とはいえ)あえて映画に組み込んだ監督の意図もまた明白だ。本作で描かれたような権力構造は現代社会においても確実に存在し、そこでは無数の「ちいさな独裁者」たちが気儘勝手に権勢を振るい続けている。いや、他人事と決めつけて安心するわけにもいかない。ある晴れた日の朝、鏡の前に立ったら、ヘロルトそっくりの顔がこちらをじっと見つめ返していた、なんてことだって起こり得るのかも……貪欲なシンビオートは我々の身近に潜伏し、理想的な寄主が通りかかる瞬間を、今か今かと待ち構えているのである。

映画『ちいさな独裁者』は2月8日(金)より、
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほかにてロードショー

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