SF

映画『クワイエット・プレイス』レビュー!

[2018年 監・出:ジョン・クラシンスキー 出:エミリー・ブラント]

沈黙は悲鳴で破られる

人間を捕食する凶暴な怪物が世界規模で出現。夫婦のリーとイヴリン、聴覚に障害を持つ娘リーガン、気弱な息子マーカスから成るアボット一家は、鋭敏な聴覚を持つ怪物から身を守るため、人里離れた農場で「音を立てない生活」を続けていた。1年前に起きた悲劇的な事件以来、リーガンは家族の中で孤独感を強めつつあり、そんな娘の心の傷を癒してやれないリーもまた、苦悩の日々を送っていた。リーがマーカスを伴って家を離れたある日、誤って音を立ててしまったイヴリンとリーガンは、怪物の襲撃をやり過ごすために地下室へと避難するが、戦いはまだ始まったばかり。イヴリンは妊娠しており、農場が怪物に包囲されるという最悪のタイミングで出産を迎えてしまったのだ……。

バジェット控えめ、登場人物は少なめ、プレミア上映直前までほとんど注目されていなかった作品であるにもかかわらず、公開されるや全米週末興行収入ランキング1位を記録。最終的に世界興収3億ドル突破という好成績をおさめ、2018年最大クラスのスリーパーヒット作へと大化けしたサバイバル・ホラー。日本でも今年、上田慎一郎監督の超低予算映画『カメラを止めるな!』(18年)が想定外のメガヒットを叩き出して世間を沸かせたが、内容の面白さ、費用対効果の高さではこちらも負けてはいない。

人間、いかに注意深く行動しようとも、どうしたって音は出る。空腹時には腹の虫が目を覚まし、布団に入ればイビキをかく。漫画『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-』に登場する盲目の暗殺者・魚沼宇水が言っていた通り、生命活動が正常に機能している人体は「音の塊」同然なのだ。仮にそこらへんをうまく誤魔化せたとしても、生活空間はいたるところノイズメーカーだらけ。軋む床材、突如唸り出す冷蔵庫、映画上映中にピロピロ鳴る携帯電話(←万死に値する)……どんなに気をつけたところで、音と無縁の生活を成り立たせることなど不可能だろう。

かつて、三木卓原作・野村芳太郎監督の『震える舌』(80年)という映画があった。破傷風を発病した少女とその両親、そして病魔に立ち向かう医療チームの奮闘を描いた人間ドラマであるが、激烈な痙攣発作を起こす破傷風患者の描写がホラー映画級にすさまじく、発作の要因(食器が床に落ちる音や、カーテンの隙間から差し込む日光)と病室で眠る少女のカットバック演出が、時限爆弾炸裂までのカウントダウンにも似たサスペンスを盛り上げていた。『クワイエット・プレイス』では、このノリが95分間ずっと維持されっぱなし。「うっかり発した物音、それが恐ろしい怪物を呼び寄せる引き金となる」というシンプルなルール設定が、物語冒頭のショック・シーン以降、どうということもないはずの場面にまで緊迫感を漲らせ、映画全体を見事に引き締めている。

本作の製作会社であるプラチナム・デューンズは、あの悪名高き破壊屋マイケル・ベイによって立ち上げられた、極めてエンタメ指向の強いプロダクション。リメイク版『13日の金曜日』(09年)や『パージ』シリーズ(13年~)に代表される、即物的描写盛り沢山のスリラーを量産してきた同社のイケイケ精神はここでも健在で、妊婦や子どもを容赦なく窮地へと追い込む。絶体絶命のイヴリンが浴室に身を潜める場面など、『テキサス・チェーンソー』(03年)のヒロイン、エリンが廃工場のロッカー内で必死に悲鳴をかみ殺すシーンのリファイン版といっていい。溢れ出る水から1本の釘にいたるまで、責め具に使えそうなものを総動員してキャラクターを苛め抜く姿勢はたいへんに俗悪でヨロスイ(ポスプロ段階で増強された「突然の物音」も、視覚的ショック演出に+αを付与する効果満点の要素である)。

怪物の持つ特性や人物設定にあからさまな伏線が敷かれているため、終盤の展開は何となく予想がつくものになっているが、もとよりドンデン返し頼りの映画ではないのでコレ弱点に非ず。現時点での懸念は、大ヒットを受けて早くも作られることが決定したという続編の方向性だ。金になるネタのシリーズ化は今や珍しいことではないが(そして筆者もこの遣り口にホイホイ引っかかる)、跳躍から着地までかくも見事にキメてみせた『クワイエット・プレイス』の場合、ここから作品世界をどう広げようとも蛇足にしかならない気が……沈黙を破った悲鳴が失望の溜息に変わってしまわぬよう、祈るばかりである。

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