SF

映画『ブラックパンサー』レビュー

ティ・チャラ国王=ブラックパンサーのソロデビュー映画!

[2018年 監:ライアン・クーグラー 出:チャドウィック・ボーズマン]

アフリカ奥地で独自の発展を遂げた文明国、ワカンダ。そこでは部族の長たちによって選ばれた国王が、豹神の加護を受けた戦士「ブラックパンサー」として国の安寧を守り続けてきた。父の急死で王位を継承したティ・チャラは、ワカンダ保有の希少金属ヴィブラニウムを狙うテロリストと対決することになるが、そこに現れたのは国王の座を狙う謎多き男キルモンガー。彼が新王ティ・チャラに向ける激しい憎悪の背後には、ワカンダ存続のために先人が犯した「重大な過ち」があった……。

エキゾチシズム満点のMCUアクション巨編

「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」シリーズの18作目にして、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(16年)で初登場したティ・チャラ国王=ブラックパンサーのソロデビュー映画第1弾。『クリード/チャンプを継ぐ男 』(15年)でその手腕を絶賛された若き天才、ライアン・クーグラーが監督を務めた結果、これまた風変わりで瑞々しい傑作ヒーロー映画が誕生した。

ヴィブラニウムといえば、清廉潔白戦士キャプテン・アメリカが自由自在に使いこなす超カタい円盾の主要材料。『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(15年)の悪役ウルトロンが、自らの新たな素体を作るために大枚はたいて闇ルートで購入していたレアメタルである。この希少資源が中国の石炭よろしくジャンスカ採れるワカンダで開発されたブラックパンサー・スーツは、まさしく地球最強クラスのアーマー。さらに、スーツ装着資格を持つ者の肉体は不思議な脱法ハーブで強化されているため、ステゴロでも圧倒的な強さを誇る。

これで身分は国王、しかも二枚目ときた日にゃ、あまりの高スペックぶりに胸がムカついてきそうなものだが、秘密国家を守護するお仕事は豹神パワーを以てしてもハードそのもの。突然に継承した王位の重さ、現状維持か改革かで揺れ動くワカンダ政治問題、狂戦士キルモンガー誕生の秘密を知ったことからくるアイデンティティー・クライシス……「大いなる力には大いなる責任が伴う」(byベンおじさん)の金言通り、一国の王様に相応しい大スケールの試練が次から次へと舞い込んでくる。たとえイイとこ育ちのお坊ちゃんであろうと、千尋の谷を這い上がるガッツが無ければMCUメンバーにはなれないのだ。

主演のチャドウィック・ボーズマンは、『42~世界を変えた男~』(13年)で有色人種差別と闘う野球選手ジャッキー・ロビンソンを演じた御仁。ブラックパンサーを演じるのに必要なアクション・センスだけでなく、王としての気品や若さ故のナイーヴな雰囲気も兼ね備えた好漢だ。彼と敵対するキルモンガー役には、R・クーグラー監督作品常連の若手俳優マイケル・B・ジョーダン。ティ・チャラの邪悪な分身であると同時に、ワカンダの大局的見地が生み出してしまった犠牲者としての悲哀も纏う佇まいが味わい深い。他にもフォレスト・ウィテカーやアンジェラ・バセットといった大ヴェテラン勢から、『それでも夜は明ける』(13年)のオスカー女優ルピタ・ニョンゴ、おきゃん(死語)な理系プリンセス役のレティーシャ・ライトまで、キャストの顔ぶれは実に色彩豊かである。

色彩といえば、最先端のテクノロジーとアフリカ美術の意匠を融合させたプロダクション・デザインの斬新さも忘れ難い。「既存の物に新たな要素を組み込む」というやり方自体は今やありふれた手法だが、『ブラックパンサー』の美術設計は、取り合せるネタの選択次第でまだまだ目新しいものが創り出せるということを証明した好例だろう。音楽についても同様で、管弦楽にアフリカ民族楽器の音をブレンドしたルドウィグ・ゴランソンの楽曲、そしてそこに被さるバーバ・マールの力強い歌声を聴けば、数あるMCU作品の中でも際立って強烈な異国情緒(エキゾチシズム)にドップリ浸かれること請け合いだ。
まもなく日米同時公開となるマーベル・ヒーロー総進撃映画第3弾『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(18年)へのブリッジ作品でもある本作。単独ヒーロー映画としても、やがて始まる大ドンチャン騒ぎの直前準備としても、おさえておきたい快作である。

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