SF

映画『ダークタワー』原作蹂躙か、見事な再構築か?

『ダークタワー』をレビュー

[2017年 監:ニコライ・アーセル 出:イドリス・エルバ、マシュー・マコノヒー]

ニューヨークで暮らす少年ジェイクは、夜ごと夢に現れる不気味なヴィジョンに悩んでいた。
何処とも知れぬ場所に聳え立つ巨大な塔、黒衣の男、戦士ガンスリンガー……。やがて、それらがただの空想の産物ではないと確信したジェイクは、とある一軒のあばら家で発見したポータル(門)を通り抜け、夢で見た異世界〈ミッド・ワールド〉へと辿り着く。荒野を彷徨う少年が出会ったのは、黒衣の男ウォルターを追跡するミッド・ワールド最後のガンスリンガー、ローランド。外宇宙の脅威から世界を守る暗黒の塔〈ダークタワー〉の存在、そしてウォルターがその塔の破壊を目論んでいることを知ったジェイクは、ローランドと共に世界を救うための旅に出発するが……。

「モダン・ホラーの帝王」スティーヴン・キングの長編作品の中でも特に巻数が多く、執筆開始から完結までに長い年月を要した壮大なアクション・ファンタジー〈ダークタワー〉シリーズ。原作者自身、「書き上げるには300年必要だ」などと戯け半分にコメントし、キングが交通事故で瀕死の重傷を負った際には強制終了の危機にも見舞われたビッグ・タイトルが、『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(09年)の脚本などで知られるニコライ・アーセル監督の手で映像化された。普通に考えれば、何パートかに分けての劇場公開やTVシリーズ化というリリース形態がベスト……のはずが、蓋を開けてみればマサカマサカの1本完結。そのうえ上映時間はたったの95分!塔を目指すどころか隣県への温泉旅行も危うい制限時間つきで、原作のエッセンスをどれだけ抽出することができるのか?

尺の短さから容易に想像できたことではあるが、原作に登場する多彩なキャラクターや入り組んだストーリーは、映画版ではゴッソリと削ぎ落とされている。旅の仲間〈カ・テット〉はローランドとジェイク少年の2人に絞られ、ウォルター絡みの因縁話も回想でサラリと触れる程度だ。ローランドの哀しき青春エピソードなどは完全に省略。もちろん、基地-GUYな暴走モノレール〈ブレイン〉との「なぞなぞバトル」みたいに悠長な見せ場が残っているはずもない。脚本家チームは原作にあった「転生」の要素を基に物語を再構築したそうであるが、それはあくまで裏設定。キング作品の「文学的象皮病」傾向もひっくるめて熱愛し、その「忠実な」映像化こそ正義と信じる熱狂的ファンに、此度の映像化企画が「看過し難い原作蹂躙行為」と捉えられたとしても、何ら不思議はない。

かれこれ20年前に初めて原作に触れた筆者も、僅かな期待と大きな不安を抱えてチケットカウンターに並んだクチである。序盤こそ、あまりにサクサクと進むお話に若干の不満を感じていたものの、ジェイクがミッド・ワールドに足を踏み入れたあたりから徐々に違和感も消えてゆき、ローランドが心眼で必殺の弾丸を放つ頃には「コレはコレでアリ!」と大いに納得。そんな風に思えた要因としては配役の妙、とりわけローランドに扮する黒人俳優イドリス・エルバの威厳タップリな存在感(特に顔面力)が無視できない。原作ファンの大多数が意表を突かれたであろうこのキャスティングは効果抜群で、ジェイク少年との結びつきや荒唐無稽なガン・アクションに強い説得力をもたらしている。ローランドとジェイクが共にガンスリンガーの信条を諳んじながら行う「特訓」シーンなど、短い場面でありながら〈ダークタワー〉シリーズの精神をハッキリと感じ取ることができる歓喜の瞬間である。

黒衣の男ウォルターを演じるマシュー・マコノヒーは、幻術で人心を手玉に取り、逆らう者には最大限の絶望を味わわせてから始末する貫禄のヴィランぶり。『キラー・スナイパー』(11年)の変態殺人刑事がマジシャンに転職したかのような胡散臭さでズイズイ迫る。ジェイク役に抜擢されたトム・テイラーもベテラン勢に負けず劣らずの熱演。日本での知名度はさほど高くないが、演技力は確かで伸びしろ十分の若手注目株だ。

オモチャ箱の中身をトコトン厳選し、原作からすれば極めてシンプルなアクション大作として再創造された実写版『ダークタワー』……とはいえ、これ1本で巨人キングのライフワークを締め括ってしまうのはあまりに惜しい。諸悪の根源である〈深紅の王(クリムゾン・キング)〉の存在をストリートの落書きで仄めかすだけなんて、冥王サウロン不在の『指輪物語』みたいなものだ。先に「1本完結」と書いたが、聞けば今回の映画化の裏では、長大な原作をTVシリーズとして描き直すメディアミックス・プロジェクトも動いているのだとか。もしそれが実現すれば、本作は史上最も豪勢なパイロット版ということになる。カネにならない企画はマッハでゴミ箱に叩き込むハリウッドのこと、まだまだ楽観はできないものの、ファンにとっては是非とも現実化してほしい「夢の企画」に違いない。

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