SF

映画『LOGAN/ローガン』旅の終わり

ローガン最後の戦い

西暦2029年。かつて世界のあちこちにいた特殊能力保持者(ミュータント)はいまや絶滅の危機に瀕しており、超人的治癒能力とアダマンチウム合金の爪を持つウルヴァリン=ローガンにも力の衰えが見え始めていた。メキシコ国境で、師のチャールズ・エグゼビアと共に隠遁生活を送るローガンだったが、ある時、一人の見知らぬ女から助けを求められる。言葉を話さない謎の少女・ローラを、ミュータントの安住の地「エデン」へ送り届けて欲しいというのだ。少女の命を狙う武装組織に急襲されて隠れ家を追われたローガンは、チャールズとローラを連れて、実在するかどうかも定かではない「エデン」への旅を開始するが……。

 筆者が、ウルヴァリンに扮したヒュー・ジャックマンの姿を初めて目にしたのはいつのことだったか。確か『X-メン』(00年)日本公開に合わせて、当時まだ健在だった日本版「プレミア」誌が点取り評を掲載した時だと思う。変なタイトルの映画に出てくる、変な髪型をしたキャラクター……普通なら「ダサッ!」の一言で片付けられてしまってもおかしくないところだが、ゴロツキの喉元に自慢の3枚刃を突きつけたジャックマンの写真には、冷やかしの声すら切り裂いてしまうほどの迫力と異様な説得力があった。あれから十数年、スピンオフ映画やカメオ出演を含めれば、実に8作品でこの当たり役を演じてきたジャックマンが遂に辿り着いた卒業編、それが9本目となるウルヴァリン登板最新作『LOGAN/ローガン』である。

 過去作から時の流れを見守ってきた観客がまず驚くのは、全編に漂う殺伐としたムードだろう。どんな深手を負ってもあっという間に回復する治癒能力(ヒーリング・ファクター)を備えていたはずの不死身男・ローガンは明らかに老化が進行し、傷の治りも爪の出具合も悪い。プロフェッサーX=チャールズ・エグゼビアは老人性認知症を患って要介護状態、かつてミュータント専門学校「恵まれし子らの学園」で生徒たちを正しい道へ導こうとしていたジェントルマンとは別人のような弱々しさだ。ここに生き残りのミュータント(仕事は主にチャールズの看護)がもう1人加わったグループ編成で、「生活費がキツい……」とこぼし続ける潤い無き日々。文明の進歩がストップしてしまったかのように荒廃した近未来風景とも相俟って、「どうしてこうなった?」との思いを抱かずにはいられない。

 そこに現れるのが、『マッドマックス2』(81年)のフェラル・キッドよろしく「ウガウガ~」としか話さない野性児ローラだ。この子、実はローガンと同じような能力を持っているのだが、生まれ育った環境が特殊過ぎて感情を制御することができず、双拳の爪(2枚刃)+蹴爪で躊躇なく死体の山を築く比類なき戦闘幼女である。老人介護と子守り、最も不向きな役目をいっぺんに背負わされて狼狽するローガン。厄介事に巻き込まれたくないという気持ちも勿論あるが、彼が最も恐れているのは他者と深く関わり合うこと、そしてその行動から来る情愛の芽生えだ。200年近い人生の中で、実父をそうとは知らずに殺し、同棲相手を撃ち殺され、横恋慕していた女をも泣く泣く手に掛けた。自分と関わった、あるいは親愛の情を抱いた相手の多くが不幸な末路を辿るという「呪い」の作用を知っているローガンは、なかなかローラとの距離を縮めることが出来ない。前に誰かも言っていた、「貴様の周りでは、良き人が次々に死んでいくな」と……。しかし、助けを必要としている者から目を背けてトンズラ決め込むには、彼の心はあまりに繊細で優し過ぎた。過去への贖罪の念、そして「今度こそは……」という微かな希望を胸に、ローガンは最後の戦いに挑むことになる。

 肉体の変調と、文字通り身を引き裂かれる痛みに悶え苦しみながら、襲い来る敵を倒していく獣性全開のローガン。ジェームズ・マンゴールド監督はここで、大幅な予算縮小と引き換えに勝ち取ったR指定の強みを最大限に利用する。血が吹き出し生首が転がる暴力表現は、今までの『X-MEN』シリーズとはまるで段違いのブルータル極まりない描写であるが、ローガンや他のミュータントたちが歩んできた道の険しさ、過酷さを観客に再認識させるためには必要な措置だったのだろう。そして満身創痍のローガンが、彼を抹殺するため送り込まれた意外な刺客との勝負に決着をつけた後には、波瀾万丈だった「ウルヴァリン・クロニクル」の締め括りに相応しい静かな感動が待っている。

 エンドロールで流れるのは、かつてマンゴールド監督が伝記映画を手掛けたこともあるジョニー・キャッシュの“The Man Comes Around”。聖書をベースにした難しい歌詞を含む曲だが、筆者が思い出したのは、同じくエンディングでこの曲を使用したW・フリードキン監督の傑作『ハンテッド』(03年)である。ジャンルもストーリーも違えど、あの作品もまた、生きる意味や死に場所を見失った戦闘のプロが「安息の場所」へと辿り着くまでを描いた変則的ロード・ムービーだった。演技イメージの固着化を恐れず、ハードな肉体改造を繰り返しながら、見事に長旅を完遂してみせたヒュー・ジャックマン……彼の抜けた『X-MEN』シリーズが、今後どのように展開していくのかを考えると若干不安にもなるのだが(数年後にシレッとリブートしたりして。まぁ、大事なのは「順応」か)、今はその勇気と役者根性に、最大級の賛辞を送りたい。長い間、本っ当にお疲れ様でした!そして、ありがとう!!

監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:ヒュー・ジャックマン、ダフネ・キーン

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