コメディ

映画「サバイバルファミリー」サバイバル音痴なファミリーの運命や如何に……?

家族を結びつけるもの

突如、原因不明の大停電に見舞われた東京。電車や自動車はおろか、自家発電機も乾電池も使用不能となった都市部は瞬く間に機能を停止してしまう。「西日本では停電が起きていない」という噂を耳にした鈴木義之は、妻の光恵と2人の子どもを連れて、光恵の父が暮らす鹿児島へ向かうことを決意。旅の足となる自転車を、どうにか人数分確保した一家であったが、食糧にも飲み水にも、まともな地図にも事欠く超長距離移動は苦難の連続。果たして、サバイバル音痴なファミリーの運命や如何に……?

幼少の頃は、停電が発生すると妙に心が弾んだ。見慣れ、住み慣れたはずの自宅が、暗闇の中で異空間に化けるようなアノ感覚。平時なら味気なく感じるレトルト食品も、ロウソクの灯下で食べた際には何だかスゴい御馳走に思えた(単にテメエっ家のブレーカーだけが落ちた場合は、この限りではない)。だが、そんな即席キャンプ気分も「どうせすぐに元通り」という安心感が頭のどこかにあったからこそ。電気で動作するもの全てがジャンクと化し、おまけに復旧の見通しもサッパリつかないとなれば、悠々とボンカレーを食う余裕なんぞ即座に無くなっていただろう。

 同じ題材をホラー、あるいはサスペンス映画として成立させる手もあるはずだが、そこは航空パニックでもハッピー極まりないフライトへと変えてしまうコメディの妙手・矢口史靖監督。電気という「文明の利器」の大モトを喪失した社会がジワジワと壊れていく様子を、細部描写の積み重ねで面白おかしく見せてくれる。ホームセンターやカー用品店の棚に並んでいる○○○を×××として使ったり、△△△を非常食に転用したりする裏ワザは、緊急時に役立つ知恵として頭の片隅にストックしておいても損は無さそうだ。同時に、鈴木一家が真っ暗なトンネルを安全に通り抜けようとする場面や、「普仏戦争時のパリもこんな感じだったんだろうか?」と思わせられるシュールな炊き出し風景など、矢口監督ならではの皮肉とハッタリが効いていて実に愉しい。

一方、このテの映画に必ずと言っていいほど付いてくる殺人・略奪その他の暴力的要素は極力(少なくとも観客の目に触れないレベルまで)削ぎ落とされている。そこにはもちろん、本作を全年齢対象のエンタメ作品としてリリースしたい制作側の思惑もあるだろう。しかし、ここ数年間だけで幾多の自然災害を経験してきた我々には、直接的なショッキング映像など無くとも最悪の光景を脳内で補完・展開させられる想像力が既に備わっているはず。孤独死や被災ペット問題といった「死のにおい」を敢えて最小限に抑え、楽天主義的なイメージを前面に押し出すという判断は、この映画にとっては大正解だったように思う。というか、矢口作品があからさまなペシミス色に侵食されてきたと感じたら、いよいよ世界の終焉も近いと覚悟を決めたほうがいいだろう。

 全編にわたって出突っ張りな鈴木家の面々は、そのままポン・ジュノ監督の映画にでも流用可能なイイ顔揃い。口先ばかりのダメおやじに扮した小日向文世、もはや相手役が誰であろうと見事に「奥さん化」してしまう深津絵里は安定感抜群だし、オーディションで選ばれた泉澤祐希と葵わかなも個性が立っている。筆者が特に「いいな」と感じたのは、バラバラになりかけたファミリーが絆を取り戻すきっかけを、誰かの超人的活躍や漫画じみたビッグイベントに求めなかった点。ここぞという場面で火事場の馬鹿力を発揮し、窮地でポイントを稼げる者だけが家族たり得るワケではない。どうしようもなく脆弱で、ときに物凄く面倒、そのくせ断つには忍びない、理屈も利害も超えた不思議な結びつき……それが家族の絆というやつなのだ。

監督:矢口史靖
出演:小日向文世、深津絵里、泉澤祐希、葵わかな、柄本明

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