舞台劇を映画化、上映時間も79分な映画「おとなのけんか」

ドラマ

舞台劇を映画化、上映時間も79分な映画「おとなのけんか」レビュー

(2011年 監:ロマン・ポランスキー 出:ジョディ・フォスター、クリストフ・ヴァルツ)

から騒ぎの向こう側

トラブルが生じた時に、自分よりもむしろ周りの人間が騒ぎ立てたせいで、コトがどんどん大きくなっていってしまった……そんな経験、皆さんにはないだろうか?

物語は子供同士のケンカで幕を開ける。カウアン夫妻の息子・ザッカリーが、ロングストリート夫妻の息子・イーサンにケガを負わせたのだ。ロングストリート夫妻はカウアン夫妻を自宅に招待し、問題を荒立てず穏便に解決しようとする。だが話せば話すほど言葉のトゲや毒が増してゆき、ムードは険悪に。やがて攻撃は相手家族のみならず、パートナーに対しても向けられるようになる。

元は舞台劇だった物語を映画化した本作、ほとんどマンションの一室のみでストーリーが進行し、登場人物は四人。上映時間も79分と、実にタイトだ。しかし、一流監督と芸達者な俳優陣によって、小粒ながらエネルギッシュな作品に仕上がっている。

とりあえずは事態も収束……しそうになると、誰かが別の話題を蒸し返して元の木阿弥に。互いの職業やインテリアの趣味、言葉遣い、嘔吐(!)、ペットのハムスターまでもが俎板に載せられ、舌戦のネタにされる。もののついでにと、日頃から溜め込んでいた家庭内ストレスも投下、こうなるともう弾は前方からだけじゃない、後ろから横から斜めからも飛んできて三つ巴、否、四つ巴の混戦。よせばいいのに酒など飲み始めちゃったものだから、語調はますます激しく、ロレツと理性はどんどん怪しくなっていく。

クリストフ・ヴァルツは『イングロリアス・バスターズ』でも見せたウザ芸に更なる磨きをかけ、気持ち良いほどにイライラさせてくれるし、ジョン・C・ライリーは事なかれ主義者の仮面がボロボロ崩れていく様子を愛嬌たっぷりに演じ、かつて『タイタニック』で婚約者の顔にツバをひっかけたケイト・ウィンスレットは、人サマの大切な画集に盛大にゲロをぶっかける。ジョディ・フォスターに至っては、自らのパブリック・イメージひっくるめて笑いのネタにしてやろうと言わんばかりの凄まじい熱演で、これを彼女にやらせたポランスキー監督共々「アッパレ!」の一言に尽きる。

夫婦同士がエキサイトし過ぎて幼児退行の気配すら見えてきたあたりで、ポンッと放り込まれるラストショットは、何とも小気味よい膝カックンだ。「おとな」が大騒ぎしている時、子供のほうがずっと「大人」な目線で事態を見極めようとしているのかもしれない。身が引き締まる一本である。

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